ハンドボール 「中東の笛」でなく中立の笛を
(1月23日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080123-OYT1T00029.htm
五輪予選のやり直しという異例の事態である。原因は目に余る不公正なジャッジにある。この際、悪弊を断って、再出発を図るべきである。
ハンドボールの北京五輪アジア予選の再試合が、東京で行われることになった。男女とも日本と韓国が出場し、29日に女子、30日に男子の試合が予定されている。
混乱の原因は、「中東の笛」だ。審判が、中東諸国に有利な判定をすることを指すハンドボール界の言葉だ。
アジアハンドボール連盟(AHF)の本部はクウェートにあり、王族が会長を務めている。オイルマネーを背景に、AHFを実効支配し、審判をも意のままに動かすと言われている。
審判が公平・中立であってこそ、競技は成り立つ。国の代表同士が戦う五輪予選では、なおのこと、ジャッジの中立性が求められる。
だが、ハンドボールでは1990年代から、「中東の笛」がアジア地域で半ば常態化していた。男子はクウェート、女子はカザフスタンが出場権を得た昨年の北京五輪予選でも、日本や韓国に不利な判定が相次いだとされる。
韓国は、60分間の試合で38回もの疑惑の判定があったとして、男子のクウェート戦を録画したDVDを国際ハンドボール連盟(IHF)の加盟国に配り、日本とともに不当性を訴えた。
予選のやり直しというIHFの決定は、審判に問題があったと認定したことを意味する。再試合を、AHFではなく、IHFの直接管理の下で行うのも、AHFの運営では、試合の公正さが保てないと判断したからだろう。
IHFには、不公正な運営を放置すれば、ハンドボールが五輪競技から外されるという危機感があるとも言われる。
事態の収拾には、IHFの強い指導力が必要である。
AHFの会長は、アジアオリンピック評議会の会長も兼務している。「中東の笛」が問題視されながら、“クウェートの独裁”を改善できなかったのは、他の競技にも影響が出ることを懸念して、日本や韓国が、なかなか強い態度に出られなかったためと指摘されている。
クウェートなど中東諸国は、東京での再試合をボイコットした。スポーツ仲裁裁判所に、やり直し予選の無効を求めて提訴もした。AHFは27日に臨時の理事会を開き、日本と韓国を処分する構えを見せている。
AHFの常任理事を務める日本は、韓国などと連携し、AHFの体質改善に力を注がなければならない。
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ハンドボールのことは、ほとんど知りませんが、渡邊佳英日本ハンドボール協会会長はなかなか立派な人物に見受けられました。
AHFの会合においても、「公正なジャッジのもと、素晴らしいゲームにしよう、という意見が聞けなかったのが残念」と語り、あくまで、IHFの決定に下位組織であるAHFは従うべきだ、という姿勢を崩しませんでした。
スポーツとはそういうもので、公平な条件のもと、ライバルより実力で上位に立とうとする努力がスポーツの価値を高めます。この、「公正」や「実力」というものが抜けてしまえば、ただのボール遊びと変わりません。このトピックについては、AHF会長ばかりがクローズアップされるのですが、中東の人々がどのように考えているのか興味があります。
結局、韓国には敗れてしまいましたが、良い大会にしようとするハンドボール協会には好感が持てますし、会場を埋め尽くした観客の姿がそれを物語っていると思います。
残念だったのが「矢面に立った挙句、韓国にいいところを持ってかれて損をした」とか、「東京オリンピックのために、ハンドボールを犠牲にするのもありだったのでは」という意見が目についたことです。
そもそも、損とか得とかを言うならば、スポーツなんかしないで経済活動に専念すればいいわけだし、経済市場ではあまり存在感のないハンドボールに熱心に取り組んでいること自体がバカ、ということになります。
また、大きな大会のためには人気のない競技の不正は見逃せば良い、なんて思っているところで、真面目に競技をする気にはなりません。自分のベストを尽くして出した結果が状況しだいで歪められてしまうおそれがあるわけですから。
いかなる競技であっても、いかなる結果になっても、ベストを尽くす環境を整え、公正に審判する義務がホスト国にあるべきだと思います。
たとえハンドボールでオリンピックに行けなくても、または、オリンピックの自国開催を逃しても、渡辺会長のように公正明大な姿勢を貫くことのほうが長い目で見ても正しいと信じています。
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