2008年6月29日日曜日

立川談志・談春 親子会 in 歌舞伎座~entaxiの夕べ~

談志のすごさ残したい 立川談春、初のエッセー集出版
【産経ニュース】2008.5.13 07:57
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/080513/tnr0805130758000-n1.htm





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「赤めだか」を出した立川談春 落語家の立川談春が、師匠・立川談志に入門して真打ちになるまでの修業時代の体験を中心にまとめた初エッセー『赤めだか』(扶桑社)を出版した。

 「談志のすごさを今残しておかなければ、(沖縄開発庁)政務次官になってすぐにやめたという事実しか残らなくなる。本を書くことで実像を残したかった」

 執筆の動機について、談春はこう話す。

 「赤めだか」は、談春が文芸雑誌「en-taxi」に連載した文章をまとめた作品で、タイトルは談志宅で飼われていた金魚にまつわるエピソードにちなんでいる。

 高校を中退し昭和59年、17歳で立川談志に入門、実家を出て新聞販売店で働きながらの前座修業。落語協会から分裂した談志一門の前座は寄席には出られず、師匠の身の回りの世話をする。師匠への反抗心、弟弟子への嫉妬(しっと)。生々しいエピソードの中に談志の人物像が浮かび上がる。

 「今のお笑いは師匠を持たず、自分で思いついたネタ2つ3つで大金を稼げるかもしれないけれど、それでいいの? 師匠から芸名をもらうことは、人じゃなくなること。そうしないと落語を教われない。そこまで踏ん切りをつけて教わるから伝わるものがある」

 談志を破門にした小さんとの師弟関係の秘話も興味深く、「誰も知らなかった小さんと談志を書きたかった」と明かす。

 読者に一番伝えたかったことは?と尋ねると、「そんなすごい人に影響を受けたボクもちょっぴりすごいでしょ?」と笑った。(栫井千春)

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「赤めだか」という本が出版された。扶桑社に「entaxi」という雑誌に掲載されていた立川談春という落語家の「ダンシュンの青春」というエッセイを単行本にしたものなのだが、これが滅法面白い。

これは、原題の通り、立川流家元、立川談志に弟子入りした、談春という落語家が、何を志して落語家になったか、天才落語家「立川談志」という人物とどういう交流があり、それらを取り巻く環境からどういうエピソードが生まれたか、という話なのだが、まず、第一に、この談春という人、ものすごく文章がうまい。

一つ一つのエピソードは落語家らしく、ばかばかしいのだが、要点はそのばかばかしさではない。ばかばかしい逸話をめぐる、談志と談春、そしてそれを取り巻く人々の思いやり、思い、悔しさや人生のままならない苦しさ、そういうものが重苦しくない形で描かれている。いや、そういうふうに書いていないのに文章と文章の間から滲み出てきているというほうが正しいのかもしれない。

人のやさしさを「やさしい」と表現するのはたやすい。だが、この「赤めだか」に出てくる人々は「やさしい」というだけでは伝わらないキャラクターと、心象風景を見せてくれる。

立川談志という人物は、見たまんまを描写しても十分読物になるのだろうが、書きすぎず、必要な部分だけを切り取って、泣き笑いに昇華させるこの談春の才能は尋常ではない。

今年一番の書籍であろう。

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というわけで、にわか落語ファンになった僕は「立川談志・談春 親子会 in 歌舞伎座~entaxiの夕べ~」に行ってきました。

歌舞伎座なんて高尚なものには無縁でしたが、予定より早く銀座に到着。

早く着きすぎたので、談春師匠が前座の時代に修行したという築地場外市場の「菅商店」も見てまいりました。(「あかめだか」でいうところの『スパイシー餃子』のところです。)テリー伊藤の実家の卵焼き屋もありました。









閑話休題。

歌舞伎座に戻り、いよいよ6時開演。お囃子が終わり、開幕した舞台の奈落から競りあがってくる談志・談春師匠。

談志師匠は容態が悪く、この一週間だけ劇的に容態が回復したので急遽出演と相成ったそうですが、見てるだけでも辛そうな様子。特に、喉がガラガラでしゃべっていることが聞き取りづらい。口上では、「この舞台で死んじゃうかもしれない。」「この舞台が最後」とか言って笑いを取っていましたが、結構洒落にならない感じでもありました。

もともと、「あかめだか」の出版元扶桑社のentaxiの座談会でも、談志師匠は

「近頃、何をしても面白くなくなっちゃった。これが肉体的な問題でね。無事に元気になるならいい、歩けるならいいんだけど、午前中は気力も何もないの、午後になるといくらかやる気が出てくるのか、少しマシになるけど、医者からは血糖値、糖尿と肝臓を直せといわれている。けど俺はこの年だからな、もう、いいよ。」

と言っていました。実は、これがこの講演をどうしても見ておきたかったところで、天才、立川談志の芸を見ずにしてよいのか、というのが高いチケット代を出してでも見に行きたかったところです。

体調が悪いなりに、「拉致太り」などと、不謹慎な毒舌を吐いて口上が終わりました。

親子会の口切は立川談春師匠の「慶安太平記」という根太。

「この根太はカッコイイ。カッコイイのにあまり誰もやる人がいないのでやってみようと思ったのだが、やってみて思ったのが、カッコイイけど、やるのが大変で、その苦労の割にあんまり面白くない」なんて言っていましたが、まさにその通り。(面白くないわけではありません。)

流れるような背景描写と緊迫するストーリー。さあいよいよクライマックス、というところで、アレっという感じ。知っている人は知ってるのかもしれないけど、初めて見た僕は目が点になりました。

2番目に出てきたのは、歌舞伎座らしく、花道から登場した談志師匠。

「体調崩して体重が50kgになった。」とか、「アタマが駄目になっちゃった」とか言いながら登場。
その場その場で思い出しながらのようにジョークとも小話ともつかない話を連発。声がしゃがれていて聞き取りづらいところもありましたが、話は面白く、もっと元気な時にちゃんと見ておきたかったと思いました。

あとで調べてみると、「やかん」という根太だったらしい。

根太だったらしい、というのはオリジナリティが強すぎて、ほとんど原型をとどめていないからだ。ただし、流れるような口調の小話の一つ一つが今のお笑いの瞬間芸のようなものではなく、受け止めて咀嚼してはじめてこみ上げてくるような、じわじわ面白い話で、「落語とは人間の業の肯定である」という談志の一つの集大成でもある気がしました。

休憩をはさんで、トリは談春。

マクラをすっ飛ばして、「あんた。起きてよ。仕事に行って頂戴っ。」

根太は「芝浜」でした。

これがものすごく面白い。

古典落語屈指の人情話として名高い「芝浜」ですが、しめっぽい感じは一切無しで、最後まで爆笑のまま舞台が暗転。

「芝浜」は談志の十八番で1月に国立演芸場の独演会でも最後にやったのがこの根太でした。談志のバトンを談春が受け取る、そんな時代の一コマを目撃したような一日でした。






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2008年6月22日日曜日

秋葉原通り魔無差別殺人事件考

犯行時の全容判明 秋葉原事件
【中日新聞】2008年6月21日 朝刊http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2008062102000062.html?ref=rank

 東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、17人が死傷した犯行時の全容が判明した。加藤智大容疑者は「たくさんの人を殺してやろうと思った」と供述。警視庁万世橋署捜査本部は、目についた人を次々に襲ったとみている。

 8日午後零時33分、加藤容疑者の2トントラックは時速40数キロで神田明神通りを東へ走行。赤信号を無視して中央通りとの交差点で5人をはね、東京情報大2年川口隆裕さん(19)、東京電機大2年藤野和倫さん(19)、無職中村勝彦さん(74)を殺害した。川口さんと藤野さんの友人の男子学生2人は軽傷。

 約70メートル東でダガーナイフを手にトラックを降りた加藤容疑者は、まず、近くにいた製造業の男性(27)を刺して重傷を負わせた。次いで神田明神通りを交差点方向に走り、携帯電話で110番した直後の東京芸大4年武藤舞さん(21)と、無職小岩和弘さん(47)を刺殺した。
 交差点では、はねられた5人に駆け寄った人が救護中だった。加藤容疑者はこのうち、タクシー運転手の湯浅洋さん(54)、男性警察官(53)、大学職員の女性(30)の順に背中や腹を次々と刺した。
 交差点南西付近で加藤容疑者は、男性会社員2人や調理師松井満さん(33)を刺し、うち松井さんが死亡した。

 その後、中央通りを南下し、走りながら会社員宮本直樹さん(31)を刺殺。自営業の男性(53)と女性会社員(24)2人に切りつけて重傷を負わせた。自営業の男性は刺されたことに気づかず、100メートル近く逃げて倒れた。


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事件の被害者の方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

秋葉原の連続通り魔殺人事件から2週間。地震のニュースやらでかき消されているのか、はたまた模倣犯がでないようにと報道規制があるのかどうかわかりませんが、事件の背景について、メディアの分析にはどうもクビを傾げざるを得ないようなものが目立ちます。少しずつ紹介しながら考えて生きたいと思います。


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秋葉原殺人男“女”と劣等感「幸せ者は死んでしまえ」
【ZAKZAK】 2008/06/11
http://www.zakzak.co.jp/top/2008_06/t2008061131_all.html

 「不細工な私には彼女ができない」「生涯孤独」。東京・秋葉原の無差別殺人で逮捕された加藤智大容疑者(25)は孤独と劣等感を赤裸々にサイトに記し続けていた。「誰かを愛したい」との独白からはバーチャルの住人というより、現実にも仮想世界にも居場所を見つけられずさまよう姿が浮かぶ。だが、ある瞬間から現実と自分をつなぎ止めていた細い糸を自ら断ち切り、凶行へ暴走し出す。そこには身勝手な自己愛しかなかった。

 ≪ニートでもイケメンなら彼女ができますから大丈夫です。不細工な私には絶対にできません≫。加藤容疑者は5月から携帯サイトに「【友達できない】不細工に人権無し【彼女できない】」との題のスレッドを立て、自分のコンプレックスを吐露し続けた。


 これに、多くはないが「前向きに行こうよ」と激励する書き込みがあり、≪不細工な私は早く消えて欲しい部類の人≫と加藤容疑者が自分をくさす反論の書き込みが繰り返された。


 同じころ、現実世界でも加藤容疑者は友人に「これまでは2D(アニメなど2次元世界)にしか興味なかったけど、そろそろ3D(現実世界)に落ち着かないとヤバイ。というわけで(彼女を)紹介してくれ」と頼んでいた。理想は「背が小さくてアニメ声で、巫女さんの衣装が似合う娘」と話していたという。
 サイトでは≪携帯ごしに人間を感じることはできますけど、それだけ。所詮、他人以上知り合い未満です≫と仮想空間でのやり取りの寂しさを漏らしていた。


 5月29日には≪私は愛が欲しい訳でも、愛して欲しい訳でもないのです。精一杯、誰かを愛したい… 愛している証(し)が欲しいのです≫と純文学を想起させる言葉をつづった。


 だが、31日から書き込みが一変する。「です。ます」調から≪幸せって何さ≫とぞんざいな言い切りになる。


 しかも≪ユニバーサルスタジオで火事とか。どうせカップルだらけなんだろ。幸せ者は死んでしまえばいいんだ≫≪彼女がいない。それが全ての元凶≫≪トラックのタイヤが外れてカップルに直撃すればいいのに≫と恨みに満ちた書き込みだけが続くようになる。


 激励にも皮肉と嘲笑だけで返していた加藤容疑者にほかのユーザーがキレ、「踏みにじったのはお前。しね」などと言い残し、掲示板を去ったからだ。


 書き込みによると、加藤容疑者は「ネットいじめ」と称し、110番通報したという。≪緊急性が無いのに110(番)使うなって言われた。緊急なんだけど。今すぐ何とかして欲しいんだけど≫と身勝手な言い分に続け≪いつも悪いのはみんなオレのせい≫≪俺だけが悪い≫の書き込み。加藤容疑者を現実につなぎ止めていた糸がプツリと切れた瞬間だった。


 ≪俺がなにか事件を起こしたら、みんな「まさかあいつが」って言うんだろ。「いつかやると思ってた」。そんなコメントする奴がいたら、そいつは理解者だったかもしれない≫≪土浦の何人か刺した奴を思い出した≫≪人と関わりすぎると怨恨で殺すし、孤独だと無差別に殺すし難しいね≫≪『誰でもよかった』。なんか分かる気がする≫と自家中毒に陥ったように凶行への坂を転げ落ちる言葉を垂れ流した。
 今月8日には≪ワシは俳優になる≫≪イケメン俳優なる≫とコンプレックスすら崩壊したかのような言葉を記し、犯行当日の朝を迎えた。


 ネット事情に詳しいジャーナリストの井上トシユキ氏は「ネットやアニメというバーチャルな世界にも現実社会にも入り込めず、現実の自分を肯定してくれる関係を探している。内向的でプライドが高く、現実を受け止められない面だけなら同じ青森出身の作家、太宰治の印象さえある」と語る。加藤容疑者は太宰と同じ青森高出身。太宰はそれほど親しくない女性を無理心中に巻き込んだうえ、自らを破滅させた。
 加藤容疑者は≪(キャバクラの)何が楽しいか教えていただきたい≫≪ソープは、先日無理やり先輩に連れていかれました。二度と行きたくありません≫と風俗への嫌悪感をあらわにしている半面、≪絵(アニメ)と恋愛する方法を調べてみた。そのキャラのためにどれだけお金を使ったかが愛情の証しらしい≫と仮想現実にのめり込みきれない側面も告白していた。


 「アニメキャラに本当に恋しているならこんなコメントは出ないはず。バーチャルな世界に引きこもっている人間ならここまで負の感情をいきなり他人への凶行に転化できなかっただろう」(井上氏)


 現実でも仮想世界にも居場所を見つけられず一方的にその糸を断ち切った加藤容疑者。だが、友人の1人はこう話す。「アキバに連れて行ってくれ、知らない世界も見せてくれたし、いつも兄貴分として引っ張ってくれた。僕らにとっては親友と呼んでいい人だった」


 友人の凶行という現実を受け止められず、この親友は心に痛手を負った。加藤容疑者には仮じゃない現実の友の声が届かなかった。


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この事件が起きるまで、なにが問題になっていたかというと、「硫化水素」による自殺の問題です。

自殺については、かなり前から問題になっていて、練炭による集団自殺などが時折報道されていました。自殺の背景については様々でしたが、ともあれ、報道の方向性としては、「見ず知らずの自殺志願者たちを引き合わせて実行に移させてしまう”インターネットの裏サイト”が問題だ」などとする乱暴な論調も批判なく掲載されていたりしました。こうした論調は一部かもしれませんが、では「自殺をどのように減らすか」という問題に正面から取り組んだ記事はついぞ目にすることはありませんでした。

そんな中で、「硫化水素自殺」が脚光を浴びたのは、その手段の目新しさと、巻き沿いを食らう被害者がでてきたからでしょう。詳細は先日のエントリと重複するので割愛しますが、そうしたニュースの行間からうっすらと漂ってくるのは、「若年層の異質な価値観」ではなかったでしょうか。

いわゆる団塊の世代を中心として保守的な世代には、ニート、フリーター、ネトカフェ難民と、戦後のライフスタイルとは異質の生活を営む若年層の存在を「理解しがたい世代」として受け止めていた背景があると思います。それでも、棲み分けができていたのは、お互いにかかわらずとも生活に支障がなかったからでしょう。

予め記載しておきますが、僕は加藤容疑者の擁護をする気はありませんし、これほどの犯罪を犯したのであれば、容疑者の心象がどうであれ極刑に値すると思います。また、これほどの事件を起こしたのであれば、まともな神経の持ち主ではあるまい、と思います。
ただし、容疑者の特徴を「オタク趣味」であったり、インターネットばかりしていたため、実生活の営みを構築できなかったかのように修飾してしまうのはおかしいとも思います。また、ネットの文法を無視して、過激な書き込みを取り上げて実生活の文法で読み解くのも恣意的であると思います。

そういう論調に僕が反応してしまうのはこういうことです。

つまり、いわゆるマスコミやオピニオンを形成している中高年にしてみれば、自分たちには縁のない、インターネットや、ニート・フリーター的生活や、オタク趣味などに毒されているからこういう犯罪に走るのだ、というように片付けることで、この異常な事件を自分たちから切り離したいのではないか。

原因の分析(究明ではない)は、類似の動機を持った人間による新たな犯行を防ぐためにはとても重要です。しかし、原因を外部に求め、自分たちの立場を安全なところに置こうとする心理がこうした人たちにはあるのではないか、と思います。
(わかりづらくてすいません。この事件については頭を整理してから書こうと思っていたのですが、まだ整理がすんでないのかもしれません)

そのように考えるのは、下記のような記事が絶えないからです。

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【秋葉原通り魔】 凶器の「ダガーナイフ」、「ドラクエ」の“アイテム”として登場…ゲーム好きの容疑者をひきつけた可能性も
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200806090251.html

秋葉原の無差別殺傷事件で凶器に使われた「ダガーナイフ」。両刃で殺傷能力が高いが、ほかのナイフと同様「販売規制はないに等しい」(刃物販売業者)のが実情。テレビゲームの武器としても頻繁に登場、ゲーム好きの面を見せる加藤智大かとう・ともひろ容疑者(25)をひきつけた可能性もある。

ナイフなどの販売業者によると、正当な理由のないダガーナイフなど刃物の携帯は銃刀法で禁じられているが、購入に関する取り決めは、業者の自主判断に委ねられているのが実情という。自主規制の動きは一九九八年、栃木県で中学教諭が生徒にナイフで刺殺された事件などを受け強まったが、刃物店の同業組合に加入しないマニア向け護身具ショップには適用されない。栃木の事件で使われたバタフライナイフは全国で「有害玩具類」に指定されたが、今でもネット通販で簡単に購入可能だ。

あるナイフショップ店員は「十八歳未満にはナイフは売らないが、成人には観賞用に使うと信じて売っている」。「堺刃物商工業協同組合連合会」(大阪)の味岡知行あじおか・ともゆき専務理事は「最後は購入者のモラルに頼らざるを得ない」と強調する。

ダガーナイフは、有名なゲームソフト「ドラゴンクエスト」などにも「アイテム」として登場。専門誌「ナイフマガジン」の稲葉博昭いなば・ひろあき編集長は「青少年に刃物の恐ろしさをもっと教え、きちんとした認識を備えさせる必要がある」と語った。

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東京・秋葉原殺傷:犯行予告の検知技術、開発へ 文脈から危険性判断--総務省
【毎日jp】2008年6月12日 東京夕刊http://mainichi.jp/life/electronics/news/20080612dde041040052000c.html

 総務省は秋葉原の17人殺傷事件を受け、携帯電話やパソコンの掲示板に書き込まれた殺人予告などを自動的に検知し、110番する技術開発に乗り出す。加藤智大容疑者は犯行前「秋葉原で人を殺します」「秋葉原ついた」「時間です」などと掲示板に書き込んでいたがこれらの表現について「殺人予告」「予告現場」「犯行開始」などにあたるかをコンピューターが文脈から判断、抽出。犯罪防止に役立てる。(略)

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今回の犯行にはダガーナイフが使われました。不必要に殺傷性の高い器具の販売を規制すべきだ、という意見には一部耳を傾けるべきところもありますが、それはあくまでも、周辺のことにすぎません。

仮にダガーナイフがなかったら加藤容疑者は凶行に及ばなかったのかといえば、そんなことはないと思います。今回の事件が包丁で行われていたら、どんな記事になっていたのでしょうか。

また、悪質だと思うところがドラクエなどのゲームの影響を臭わせるところです。仮にドラクエにでてきたからと言ってなんだというのでしょうか。ドラクエシリーズは数千万本の販売数を誇る人気ゲームです。逆に言えば数千万本売れていて、その影響を受けて犯罪を犯した人間は一人しかいないわけです。こうしたミスリードに辟易します。仮に包丁で人を殺した事件が起きたら「キューピー3分間クッキング」の影響を考えますか?

また、総務省の対応も非常に筋が悪い。ネットの書き込みをしたから犯罪が行われるのでしょうか。仮にこのシステムが稼動したとして、犯罪予告の書き込みが行われて、その事件が未然に防がれたとして何になるのでしょうか。この事件を受けて、犯罪予告者の数は増加していて、警察は威信をかけてその摘発を行っています。本当に凶悪事件を行おうとしている者が、ネットに書き込みすれば、自動的につかまってしまうのであれば、予告などせずに凶行に及ぶだけではないのでしょうか。こんなものに金をかけて、犯罪予告を行う愉快犯が次々と摘発される中で、加藤容疑者と類似する事件が起きた時、「今回の犯人は、ネット上で予告しなかったため、未然に防ぐことができませんでした。今後はネットで予告しない犯罪者についても十分に対応できる体制をとっていきたい」とでも声明するのでしょうか。

何が言いたいかというと、犯行の原因を外部に求めていった結果、間違った結論を下しつつあり、今後の再発防止につながらないのではないか、という危惧がある。もっと言うと、「対策を講じているのにもかかわらず、若年層の凶悪犯罪が減らないのは、若者の価値観が既存の概念では説明できないほど異質であり、その質はきわめて凶暴である」という方向に空気が流れていくのではないか、ということです。

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【暴発 秋葉原殺傷事件を読む】(3)哲学者・批評家 東浩紀
【産経ニュース】2008.6.21 08:19
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080621/crm0806210821004

 ■若者の利害軽視する社会

 死者7人を出した秋葉原無差別殺傷事件からまもなく2週間になる。

 事件についてはすでに多くの報道が出ている。マスコミでは例によってネットやゲームの影響が強調され、家庭環境も注目を集めている。そこでおもに語られているのは、劣等感を抱えた未熟なオタク青年が「逆ギレ」して刃物を振り回した、という単純な犯人像である。

 しかし、その見方は正しいだろうか。容疑者はネットで犯行を予告している。そこには、動機として社会への不満や疎外感が、表現の幼稚さはあれかなり明確に記されている。2日前に凶器を購入し、前日に現場の下見を行い、当日静岡から秋葉原まで長い距離を運転しているあいだも、容疑者は冷静さを失っていない。そこに窺(うかが)えるのは、暴力への衝動というより固い決意である。事件の本質は、暴力衝動や若者文化といった要素にはなく、容疑者が抱いた絶望と怒りの中身にあると考えるべきだ。

 では、容疑者はなぜそこまで絶望し、なにに怒っていたのか。そして、なぜそれを無差別殺人として表さねばならなかったのか。正確な答えは今後の調べを待つしかない。

 しかし、現時点で言えることもある。筆者はさきほどマスコミの犯人像が単純だと記した。じつはネットの状況は異なる。ネットの一部では事件直後から容疑者への共感の声が現れていた。それも愉快犯的なものではなく、真剣な書き込みだ。事件の悲惨さを承知したうえで、それでも加害者に共感してしまう若者が一定数いたのである。

 事件の長期的影響を考える場合、このことは重要な意味をもっている。捜査の進展にしたがい、もしかしたら今後事件は無目的な行動だったことが明らかになるかもしれない(筆者は決してそう思わないが)。しかしそれでも、少なからぬ若者が事件に時代の象徴を見てしまったという事実は残る。これは危険な兆候である。

 しかもそれはいま突然現れた感性ではない。論壇ではこの数年、若い世代の社会に対する絶望や不満が頻繁に話題になっていた。ワーキングプアや非正規雇用、ネットの言葉で「非モテ」(モテないの意)などがキーワードだ。昨年は「希望は戦争」と語る若手論客まで現れた。その空気と今回の事件の受容は深く繋がっている。

 筆者はここで「若者に気をつけろ」と言いたいのではない。むしろその逆である。年金や財政の破綻(はたん)、自己責任の倫理など、日本社会はある時期から若い世代の利害を軽視するようになった。少なくとも「負け組」の若い世代はそう思うようになった。その不満が鬱積(うっせき)し、無差別殺人までが共感を呼ぶ事態が生じている。この事態を打開するためには、事件を「心の闇」に押し込めることなく、共感の声も不謹慎と斬(き)り捨てることなく、彼らの負の感情に正面から向き合うしかない。つまり、若者の声に耳を傾けるしかない。

 筆者は容疑者の厳正な処罰を望む。被害者の無念は想像するにあまりある。情状酌量の余地はないし、英雄視も許されない。模倣犯による犯罪予告が現れているが、厳しく取り締まるべきだ。

 しかしそのうえで、私たちはもう一歩足を踏み出す必要があるのだ。
次世代の怒りを無視する国は、必ず滅びるからである。

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この事件の背景を整理すると、容疑者は非正規雇用で、支えてくれる家庭もない上に、金銭的余裕もなく、万が一解雇されれば住居さえ失うという状況(しかもクビになってもおかしくない状況だった)でした。このような生活を何年も続けていたことは、「オタク趣味だった」「インターネットにしばしば書き込みをしていた」「ゲームが好きだった」などということ以上に今回の事件の動機の形成に重要な役割を担っていたのではないのでしょうか。

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「派遣規制は間違ってる」 秋葉原事件との関係は?
【JキャストTVウォッチ】2008/6/12
http://www.j-cast.com/tv/2008/06/12021670.html

ワイドショーを『独占』した秋葉原事件とその犯人像も次第にネタの焼き直しが増え、終わりが見えてきたようだ。

新たな事実としては、ナイフを購入したミリタリーショップで、ナイフを抜き差しするようにも見えた犯人の動作は「雪かき」だったらしいことがわかった。関係者の証言によると、店員との世間話の流れのなかで、青森出身だと話した犯人。「雪が多いですよね」と応じた店員に、「雪かきが大変だ」的に答えるとともに、件の身振りに及んだそうである。

スパモニ討論会では、昨日(6月11日)、町村官房長官が犯行に関連して「派遣」(が規制緩和で多くなった現状)を問題視したのを受けて、ふたたび、いや3度「派遣」問題が俎上に。すると白石真澄・関西大学教授が待ち構えていたように反論の狼煙をあげた。

「いまや働く人の30数%がこうした非正規雇用で、それを規制強化すると企業活動は成り立たないと思う」「こういう(非正規の)人たちの犯罪確率が高いという科学的根拠もなく、派遣そのものが悪いとして規制する方向は間違ってる」

これに対して、小木逸平アナが「鳥越さんは、派遣について違う意見かと……」と采配をふる。昨日、「派遣」主因説を主張した鳥越俊太郎のコメントはやはり同じ道をたどり、「小泉改革」に行き着く。「小泉改革のなかで間違っていたことは手直しするべき」と訴えるのだった。

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僕はいわゆる「ロストジェネレーション」と呼ばれる世代で、学生時代にはバブルの崩壊、就職期には超氷河期を経て、長い日本経済の停滞を経て景気拡大の実感を全く味わってこなかった世代です。それでも、この現代の日本という国に生まれたということだけで、餓死もせず、戦争もないのですから感謝すべきだと思っています。ただし、同時に景気拡大期を味わってきた団塊世代である親の世代の浮かれた価値観には違和感を覚えるし、「再び就職バブルか!?」みたいな今の就活中の世代をひがんだりする気持ちも、恥ずかしながら持ってしまうこともあります。

幸いにして僕は、安月給なりに正社員として働いていますが、派遣社員や契約社員の友人もいるし、日雇い派遣の問題などを考えると、あまり他人事ではいられないのですが、こうした事件が起こってもなお、世間は「日雇い派遣問題」や「ネトカフェ難民問題」にはフォーカスされず、「団塊世代の負担増につながる『後期高齢者医療制度』を廃止しろ」と言っています。

高齢者医療がどうでも良いというわけではありませんが、現役世代のサイレントマジョリティの中には、口にせずとも不満がたまっていることも確かです。今回の事件では、その不満感が暴発してしまった例なのかもしれませんが、こうした不満が地熱となって、いつか噴火するのではないか、というのも十分に考えなくてはいけない。

今回の事件はあくまでも犯罪ですが、勘の良い人の中にはこの事件を「テロリズム」として位置づけている向きもあります。本人にその自覚はないのだろうとは思いますが、実際には、この間まで「ホワイイトカラー・エグゼンプション」を導入しようなんて言っていた厚生労働省は、派遣社員制度の見直しを図る方向に来ています。

戦後の日本は高度成長に支えられ上り調子できていましたが、あらゆる所でその綻びが見え始めています。そして、そのツケを先送りし続けてきたことにも気づきつつあります。このことを正視して、問題の解決に努力していくことが、このような事件を繰り返さない唯一の解決法だと思います。



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