2008年2月1日金曜日

逃がさない。

26年前の殺人「時効」認めない! 教師殺害事件で賠償命令
【産経ニュース】2008.1.31 15:29
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080131/trl0801311529005-n1.htm

 昭和53年に殺害された東京都足立区立小学校元教諭、石川千佳子さん=当時(29)=の遺族が、26年後に犯行を自首した同じ小学校の元警備員の男(71)に約1億8000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が31日、東京高裁であった。

 青柳馨裁判長は、男の殺害行為に対する賠償請求権は消滅したとした1審東京地裁判決を変更、殺害行為の賠償責任を認め、計約4200万円の支払いを命じた。

 この訴訟では、「不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する」と規定した民法上の「除斥期間」をどう判断するかが争点となった。1審東京地裁は「殺人」と「遺体を隠し続けた行為」を分けて判断。殺人は除斥期間が過ぎているとして損害賠償を認めず、遺体を隠し続けたことについてのみ330万円の支払いを命じていた。

 青柳裁判長は、民法の相続関係の時効規定を挙げ、「相続権利があることを知らないまま時効が成立してしまう場合があり、この規定は、そうした不利益を受ける者を保護するためにある」と指摘した。

 その上で、除斥期間とこの民法規定を比較し検討。「相続の発生が分からない原因を作った加害者が20年で賠償義務を免れるのは、著しく正義・公平の理念に反することになる」と述べ、一定の条件下では、この時効規定の趣旨に照らして、除斥期間の効果は生じないと結論付けた。

 遺族は男を雇っていた足立区も訴えていたが、昨年12月に和解が成立した。和解条件には(1)区は2500万円を遺族に支払う(2)遺族に哀悼の意を表し再発防止に努める-などが盛り込まれた。

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 ざっくりとした事件のあらまし。

 足立区で小学校の警備員をしていた男が些細な口論から同校の女性教師、石川さんを殺害。
死体を自宅に運び入れ、床下に埋める。

 そのまま26年間だれにバレることなく暮らしていたが、2004年区画整理におり、自宅の立ち退きを迫られる。

 死体が発覚されるのを覚悟し、警察に自首するも、公訴時効である15年を過ぎていたため、男は千葉に新居を構え、公務員年金を受け取り悠々の生活。マスコミの取材にはホースで水をかけ、棒を振り回して追い回すなど、反省のカケラも見られない。

 被害者遺族にはなんの保障もされず、ただ、犯人だけが身分を守られて暮らしている状況に遺族が憤慨し、民事訴訟を起こす。

 地裁では「殺害への賠償請求権は消滅した」として、遺体を隠していたことについて330万円の賠償を命じる。男は、1回も裁判に出廷せず。

 高裁において、除斥期間を認めず、「殺害への賠償請求権を認める」という判決を出し、賠償を命令。

詳しくは


 どういうことかと言うと、

 民事訴訟における賠償請求権に触れている民法724条によると、

第724条
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

 ということで、通常であれば、賠償請求権は20年。今回のケースは26年過ぎているわけですから、一審の東京地検の判決は法律論としては妥当な判決だったわけですが、今回の高裁の判決は「除斥期間はない」という考え方を認めて、一歩ふみこんだ判決を出しました。

 「除斥期間」というのは民法724条の「不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」という部分です。これは、「著しく正義・公平の理念に反する場合には除斥期間の適用がない」とする、東京予防接種禍訴訟(平成10年6月12日)の最高裁判決に基づいています。

 今回の事件については、民事訴訟を起こそうにも、訴訟を起こす相手がわからなければ起こしようがありません。青柳裁判長は「相続権利があることを知らないまま時効が成立してしまう場合があり、この規定は、そうした不利益を受ける者を保護するためにある」として、賠償請求権の時効は認めないというわけです。

 大岡裁きではありませんが、我々は共同体においての社会正義というものの存在を信じて生活しています。その存在が疑われるようでは、安全な生活を営むことはできません。

 本件のように「人を殺しても、どこかに隠して15年過ぎれば罪にならない。20年過ぎれば賠償する責任もない」ということで犯罪者が開き直って大手を振って生きていけるような世の中になってしまっては、社会が崩壊していってしまうことは間違いありません。

 賠償されても、殺された人が生き返るわけではないので、遺族の方には気の毒に思いますが、それでも今回の判決では「一矢報いることができた」と思ってもらえるのではないでしょうか。

※「除斥期間」についてはこちらのサイトを参考にさせていただきました。http://flugel.at.webry.info/200609/article_65.html


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