2008年2月5日火曜日

なぜ人を殺してはいけないのか

「死」の教科書 ~なぜ人を殺してはいけないのか~
産経新聞大阪社会部 扶桑社新書

第一章 なぜ人を殺してはいけないか
第二章 喪の作業 -JR事故の遺族たち-
第三章 償い -JR事故から二年-
第四章 「三万人」の叫び
第五章 死刑のある国
第六章 最後をどこで迎えますか第七章 葬送の行方最終章 戦争と平和


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 様々な立場の人々の、様々な死について考える本です。

 印象に残ったのは、大阪で行われた、生命についての授業。クラスで飼っていたブタの「Pちゃん」。生徒の卒業に際して、その処遇が問題になる。教師は「食肉センターで解体し、みんなで食べよう」と提案する。その姿がテレビのドキュメンタリーで放映され、大きな賛否の反響が沸き起こる。その顛末。

 食卓に上がる食料と生命とは、地続きであるにもかかわらず、それを意識せずに生活しています。去年見た"BABEL"という映画では、「ヤドカリに指を挟まれた」と大騒ぎするカリフォルニアの少年がメキシコで、さも当たり前のようにニワトリを絞めるところを見てギョっとするシーンを思い出しました。

 また、「第三章 償い -JR事故から二年-」ではJR西日本の福知山線の話がありました。

 「第二章 喪の作業 -JR事故の遺族たち-」では福知山線事故の被害者の話でしたが、3章では、加害者であるJRの職員にスポットライトを当てています。

 大規模な交通事故では、「ご遺族様担当」という係を遺族家族のためにつけるそうです。様々な職員が通常業務を行いながら、長期に渡って遺族のケアのために世話をするそうです。そんな業務があるとは、まったく知りませんでした。

 御巣鷹山の日航機事故の際には、被害者慰霊のために、遺族が毎年、御巣鷹山の事故現場に訪れるそうです。中には高齢で山に登れない遺族のために、職員がおぶって1時間もの行程を登っていくのですが、背中で「人殺しの会社だ」などとなじられる様子などが書かれています。

 JRの職員は

 「玄関先でたち続けることは辛くない。ご友人の方から厳しい言葉をいただくことも辛くない。家の中から聞こえる、ご遺族の途切れることのない泣き声、ご遺体に呼びかける悲しい声を聞くのが辛い。気を遣っていただき、椅子を用意してくださるのが、お茶を用意してくださるのが辛い」

と書いていました。

 その他、自殺の問題、死刑の問題、ホスピスや葬儀の問題、戦争による死など、具体的な事例を挙げて問題提起していました。

 産経らしい論調とも言えますが、個々の事例は普段は意識しないものの、決して他人事ではなく、考えさせられる本でした。


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