2008年4月26日土曜日

聖火

「フリーチベット」の叫び届かず亡命2世 泣きながら乱入 聖火リレー
【産経ニュース】2008.4.26 13:39
http://sankei.jp.msn.com/sports/other/080426/oth0804261339026-n1.htm 


何のための、だれのための「平和の炎」なのか。26日、3000人規模の厳戒態勢の中で行われた北京五輪の聖火リレー。沿道を埋め尽くす真っ赤な中国国旗と、時折揺れるチベットの雪山獅子旗。出発式会場に一般客は入れず、平和の祭典を象徴するイベントは「市民不在」で進んだ。「チベットに自由を」「ゴーゴーチャイナ!」。チベット問題を訴えるプラカードも掲げられ、タレントの萩本欽一さんや卓球の福原愛さんが走行中には男が取り押さえられる場面もあった。善光寺で知られる仏都・長野市は終日騒然とした空気に包まれた。(林英樹、永原慎吾)

 ハプニングは突然起きた。JR長野駅や善光寺周辺と比べて、比較的観客の数が少ないコース中ごろの沿道。「フリーチベット!」。チベットの旗を握りしめた男がロープをまたいで車道へ飛び出し、聖火ランナーの列に飛び込んだ。警官隊に取り押さえられ、地面に顔を押さえつけられながらも、「フリーチベット」の泣き叫ぶような声は消えない。

 男は、台湾に住む亡命チベット人2世の古物商、タシィ・ツゥリンさん(38)。「私はオリンピックに反対しているわけではない。ただ、チベットの惨状を全世界に訴える絶好の機会だと思っている」。この日朝、沿道の別の場所でチベットの旗を広げていたタシィさんは記者にそう話していた。

 タシィさんは、中国のチベット侵攻後の1959年、チベットからインドに亡命し、その地で生まれた。紛争は直接経験していないが、父親の壮絶な体験がタシィさんの心に刻み込まれている。

 父親は紛争の最中、政治的理由で中国公安当局に拘束され、死刑を宣告された。しかし執行の前日、一か八か、小さな窓から絶壁に向かって飛び降りて脱走、一命を取り留めた。その後、夫婦で当時7歳だった兄を連れて2週間かけて、命からがらヒマラヤ山脈を越えたという。

 「チベット独立は両親の悲願でもある。それを実現するためには、残りすべての人生を犠牲にする覚悟がある」

 チベット難民として暮らしたインドでは、常に「どこにも所属しないホームレスのような感じだった」。しかし、ダライ・ラマ14世の言葉に接し、考え方が変わった。「チベットはチベット人のもの。暴力を使わず、平和的に訴えることで、私たちの『自由』を取り戻したい」。

 タシィさんは25日夜に長野入り。タイの聖火リレーでも抗議活動に参加したが、そのときと比べると、日本のほうがチベット支援者が多いことに驚いたといい、「応援してくれる日本のみなさんに感謝している」と述べていた。

 穏健にチベット問題を訴える人たちもいた。市民団体「SFT日本」の代表を務める亡命チベット人2世、ツェリン・ドルジェさん(34)=名古屋市=らも長野入りし、「チベットに自由を チベットに人権を」と書かれた横断幕を握りしめた。

 「私たちは聖火リレーを妨害するつもりはない。ただ、中国政府にオリンピック精神に立ち返ってほしいだけ。自分の思うこと、感じること、自由に発言できる社会にしたいだけだ」

 SFTでは事前に、抗議をする場所や抗議方法について、長野県と協議を重ねていたが、ツェリンさんらの周りには、「ワン・チャイナ」と連呼し、中国国旗を翻す大勢の中国人たちが詰めかけ、その声はほとんどかき消された。

 チベットの中心都市、ラサでは中国人の人口がチベット人を超え、子供たちも中国語を話すようになっているといい、「このままでは私たちの文化や宗教は確実に跡形もなく消えてしまう」。

 この日、長野を訪れたチベット人らの多くは3グループに分かれて抗議活動に出かけた。あるチベット系中国人男性は「チベットに残してきた家族が中国の公安当局に尋問を受けており、顔や名前を出して抗議活動をするのは正直怖い」とこぼした。

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 ようやく、長野の聖火リレーが終わりました。テレビを見ていてもあまり様子が伝わってきません。ネットでは、中国国旗を掲げる影像や、関係者の「成功裏に終わった」みたいな発言や、はたまた逮捕者が(他国のリレーに比べて)少なかったことから、失敗だったのではないか、という論調が優位なように感じます。

 しかしながら、本来、平和と祝福に見守られてリレーする聖火が、このように逮捕者が出る、はたまた、負傷者がでないかどうかを心配しなければならないような行事になっていることがすでに滑稽であることは言うまでもありません。

 国際世論のスタンダードとして、暴力を用いないこと、そして、人権や自由といった普遍的な価値を擁護し、それに反対する勢力に対してはきちんと反対の声を挙げることが求められています。

 前者に対しては、小競り合いのようなものがあったり、卵が投げられたりということがあっても大きな負傷者が出ず、イベントとして完結できたことはよかったことだと思います。

 一方、後者については、チベットの国旗をリレーに持ち込んだ人々のおかげで、日本国民もチベットについて問題意識を持っていることが多くいることがアピールできたことは成果ですが、政府を始め、公的機関からこういう声が聞こえてこないのは非常に残念なことです。

 特に長野の自治体については、治安を心配する面があるにしろ、あまりにも世界的な問題について無関心であったと言わざるを得ません。

 そういう及び腰の姿勢が多い中で、ボイコットを表明し、チベット問題を憂慮する声明を出した善光寺の行いが、非常に尊いものだったことは言うまでもありません。特に、仏教界の腰が重い中で、善光寺は日本の代表的な寺院であり、また、オリンピックにも所縁の深い寺院がこうした声を挙げたことには本当に大きな意味があったと思います。

 長野でのリレーの前に、中国はダライ・ラマとの対話を行うことを表明しました。これが実効的な方向に向かっていくのかは疑問ですが、それゆえにチベット情勢を見守っていかなくてはなりません。また、チベットだけでなく、新疆ウイグル問題にももっと関心を持っていかなくてはならないでしょう。



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